1977 うらべまことのトップ対談

月刊チャネラーNo183 1977年3月号より引用

(株)ジュネ代表取締役 八野井尚

記事タイトル「うらべまことのトップ対談 ゲスト(株)ジュネ 取締役社長 八野井尚」


「個性があってファンがつけばつぶれない‥…」

(うらべ)昨年までは専門店時代、今年はオーバーストア時代で、専門店の三分の一は潰れるという説もあります。メーカーの立場からみて、そういう印象はありますか。

(八野井)ありますね。

たとえば、ファッションビルがどんどん建って、デザインを聞き齧った人がお店出してますね。

ああいう人が、採算をどういうふうにとっていくか、ぼくらはすごく疑問に感じているんですよ。

こういうように競争が激しくなったとき、ほんとうにプロ的なセンスをもった方でないと、生き残れないような気がしますけどもね。

それと同じ現象が、われわれメーカーにもくると思うんですよ。

(うらべ)そう思いますね。オーバーストアということは、そこにそれだけ流通在庫が増えているわけだから、それを提供している製品もオーバーなはずですよね。それなのに、どうしてオーバープロダクションといわずに、オーバーストアというんでしょうかね。

(八野井)メーカーの場合も、これからはほんとの体質を作っていかないと、ぼくらも残れないような気がしています。

今までは、ぼくらの力でここまで来たというより、時代にあっていた……運がよかったんだと、自分じゃ反省しているんです。

(うらべ)専門店時代の流れに、すんなり乗って大きくなった、という意味ですか。

(八野井)そう。自分ではそう思っています。

過去、ぼくらの先輩のメーカーさんの時代は百貨店が王座でした。

つぎは量販店の時代がきて、一〇年くらい前から専門店がブームになった。

うちは始めて十二年目ですから、このブームとともに歩いてきたわけです。

(うらべ)専門店時代のブームが終わったとなると、これからは何時代になるんですか。

(八野井)専門店やブテイックがぜんぶなくなるということはないと思うんです。

小さい店でも、個性のある所で、ファンがつけば潰れることはない。

でも、ブームの時は、どこを歩いても同じような感覚の店でしたが、これからは消費者が選別するようになりますね。

安易にものを買わなくなりますから、残れない店も出てくると思うんです。

(うらべ)となると、メーカーの方も、残れる三分の二を取引対象に選別しなければならない。 三分の一のほうとはあまりつき合わないということですね。

(八野井)うちとしては自分の企画をもっていますから、それを商品にしたとき、小売屋さんのバイヤーが選ぶ目をもたれているかどうか‥…。

(うらべ)なるほどね。つき合っていいか悪いかの判断は、第一にバイヤーの姿勢ということですね。その他にはどんな要素を考慮しますか。

(八野井)店の構成でわかりますね。

こういうものを消費者に提供するというイメージが、はっきりしたお店でないとダメですね。

ただ、こっちのものが売れているから仕入れる、あっちのものが評判いいから仕入れるといったお店は、雰囲気でわかるんです。まとまりがないんですよ。

こういうお店とはあまり、‥…。


「アンチ、ジーンズ路線でクラシック、フェミニン一筋に」

(うらべ)ストアポリシーのないところはアカンということですね。

(八野井)ええ、ブラウス一つでも内はエレガンスなブラウスを出していますから、これはアメリカのカジュアル的なものとはいっしょに売れないわけです。

お客さんは迷うと思うんです。

ですからうち一軒じゃ賄いきれないとき、同じような雰囲気のものを作るメーカーさんとうまく組み合わせると、お店自体に一つの線がでると思うんです。 

(うらべ)おたくのデザインポリシーと先方のストアポリシーが合致していることが肝心なわけですね。

(八野井)ええ、同じ二〇歳の人でもジーンズが好きな人もいれば、うちのドレスが好きな人もいると思うんですよ。

(うらべ)ということは、ジーンズの嫌いな人向きというのが、「うちのドレス」のデザインポリシーと考えてよろしいですか。

(八野井)極端なこと言えばそうなります。

(うらべ)ジーンズの全盛期に会社をスタートさせて、ジーンズの嫌いなやつを対象にしたのは、ある意味の穴狙いですね。

ファッションというのは、体制に対して、反対の部分がだんだん燃え広がってくるものだから、それは素晴らしい着眼です。

「人の行く裏に道あり花の山」的な考え方が、想像できるんですがね。

日本のアパレルメーカーの中で、おたくがキワ立って成績がいいというのは、ある方向に向かってみんながワッと牛の暴走みたいに突っ走ったとき、それにつられなかったのが、いい結果になったといえますね。

(八野井)ファッションはサイクルだと言いますね。

いつかは戻ってきているような気がするんです。

当たるときもあれば当たらないときもある。当たらないときでも、消費者がいなくなったかというと、そういうことはありえないです。

ブラウスでも、一時はTシャツタイプしか売れなかったときがあったけれど、すべての女性がぜんぶTシャツの愛好者かというと、そんなことはない。

ブラウスでも うちのフェミニンなブラウスは少量生産ですが、それを提供することを忘れたら、大それた言い方ですが、がっかりするファンがいるんじゃないか。

うちの商品を大事に売ってくださるお得意さんに申し訳ないような気がします。

それを自分なりに大事にしてきたから、いい結果になったように思うんです。


「牛の暴走を横目で見ながら花柄ジョーゼットで大当たり」

(うらべ)しかし、穴狙いというのは規模が小さかったからできたんじゃありませんか。

それがうまく当たって、年商五五億に急成長したと聞いていますが、これが五〇〇億になり一〇〇〇億をこえるほど大きくなったら、自分が牛の群れの先頭に立っちまって、穴狙いができなくなりませんか。

(八野井)よく、そういう質問をうけます。

いまの規模だからできるんじゃないかって。

商売をはじめたころ、いい服は年商三億ぐらいの規模でないと提供できない、という話を聞いたことがあります。

いいものを作るには、会社を大きくしたらダメというのは、始終耳にしてきました。でも、大きくしたらいいものができないかというと、そうでもないと思うんです。

なぜかというと、洋服は人が考え、人が作るものでしょう。

フレッシュな人材を、絶えず企業のなかで新陳代謝して、ビジネス的な考え方で組織を作っていけば、よりいいものができると思います。

(うらべ)その、「いいもの」というのは、どういうふうに考えていますか。

(八野井)いいものというのは、高級品だとか、素材が高いとか、そういう意味じゃありません。

やはり、価値観というのは、ふつうの素材でも、おしゃれっぽい付加価値のあるものが、いい商品であると思います。

(うらべ)そうですね。ベターゾーンというインチキな言葉にも示されるんですが、よく間違えられるのは、金額が高いから高級品、高級品イコールいいものという錯覚ですね。いい商品というのは、金額の大小ではなく、リーズナブルプライス、内容と価格がマッチしていることが第一ですね。

(八野井)要するに、消費者が着て、満足できるような商品が、いい商品だと思いますね。

(うらべ)そこで一つ問題があるんです。消費者の満足というのは、希少価値のあるものを、リーズナブルプライスで入手できたということですよね。市場に氾濫しているものを、リーズナブルプライスで手に入れて満足感はないんですから。市場における希少価値というのは、つまり、穴狙いということにもなるんだと思うんです。

実はこちらの会社に来る道々、チャネラーの記者に「ジュネってのはどんな会社なのか」って聞いたら、「ジョーゼットの花柄ブラウスが大当たりして、昨年本社ビルを新築した会社です」(笑)おそらく、アンチジーンズという基本路線を守っていたから、他社がエスニックだのワークルックだのに暴走していたとき、ジョーゼットの花柄ブラウスという大穴が当たったんだと思うんです。牛が暴走しているのを、一人横目で見ていたから、希少価値が生じたわけでしょう。

(八野井)(笑)だから、漠然とモノを作るなと、企画にはよくいうんですよ。

(うらべ)ところが、この業界では、おたくがアンチジーンズ路線で当たったとなると、こんどはその後ろに牛の群れがついてくる。

反体制が燃え広がれば、それが体制になってしまう。

アンチジーンズというアンチテーゼが、テーゼになってしまったら、もはや穴狙いではなく、暴走牛の先頭を走らなくちゃならない。

(八野井)よく、そういうことをいわれるんですが、うちの場合、発足当初から クラシック フェミニンというのが、うちの商品テーマだったんです。

自分のものを大事にしていれば、少々よそが同じことをやっても、うちはより深く突込んでいるだけ強いと思うんです。

デザイナーも、会社の方針さえしっかりもっていれば、新しい人でも二、三年たてば十分会得できるんですよ。

だから、作るものにぜんぜん迷いがなくなってくる。

生地屋さんが莫大な素材をもってきても、その中から選ぶ場合、迷わないで選べるようになります。

それがうちのものだと思うんです。

(うらべ)意識のマニュアル化ですね。

(八野井)ただし、イメージがある程度確立されると、そのイメージにあぐらかいて、マンネリ化する場合があります。

それでは、小売屋さんが逃げていくと思うんです。

なにか自分のものをもって、その中に絶えず、「今」を表現していく勉強をしないと、新鮮さのない旧態依然のイメージで、ほんとうのイメージにならないと思うんです。


「ファッションの物づくりは野菜や魚と同じ感覚で」

(うらべ)今まで伺ったことは、それぞれおたくが業界の注目を浴びるほどの業績を残した原因と思うんですが、それ以外にどんな原因が考えられますか。

(八野井)うちの場合、売り上げはまだ余力があると思うんです、利益がでたというのは、商品回転率からこういう結果になったと思うんです。

ファッションの物づくりは、野菜とか魚と同じような感覚でないとだめだと言ってるんです。

いつも倉庫にねていて、腐っていくようなものだと、新鮮さがなくなる。漠然と迷ってつくると、そういう商品が必ずでてくるんです。

だから物づくりの考え方とか、企画の捉え方なんかは、きびしくやっています。

(うらべ)アパレルメーカーの利点というのは、残品在庫を抱くか抱かないかで、大幅に違ってくるものでしょう。

(八野井)そうですね、在庫を残すのがいちばんいけないですね。

(うらべ)おたくの場合、買取方式ですか。

昔は返品があるのは百貨店だけだという伝説がありましたが、いまではスーパーでも専門店でも、売れなければポンと返してくるのが普通のようですが、…‥。

(八野井)お得意さんの中には、そういう方もありますけど、うちの場合はほとんど買取りです。

返品できるような体質だと、仕入れなさる方も、安易になると思うんです。

返品できないとバイヤーも厳しくなります。

それに徹しられるようなお得意さんとだけ、うちはお付き合いしていきたいんです。

(うらべ)返品のない受注というのはどうやっているんですか。

(八野井)展示会の受注が四〇%くらい占めていますが、ご注文いただいても、一〇〇%つくることはないです。

一時、納品率が悪いと、小売屋さんからクレームがでましたけれど、一〇〇%つくればうちの会社自体はらくなんです。

でも、物作りには、製作の期間があるわけです。

二か月かかって作った場合には、必ずちがう流れに変わっています。

だから、一か月以内に押さえられるように、工場出しをいつもコントロールしているんです。

(うらべ)工場の問題というのは、下請けを増やせば解決できるわけだから、おそらくもっと高度な政策意図で、生産数量を押さえているんでしょうね。

つまり、あまり腹いっぱい食わさない(笑)

(八野井)そうです。

(うらべ)腹いっぱい食うと、吐いて戻したりなんかして…‥。(笑)

(八野井)受注の四十%くらいしか作りませんが、次の段階でフォローしていく体制を取っているつもりなんです。

というのは、企画は絶えず、先へ先へと進んでいます。

いま、一月、二月の商品が生産に入った段階で、こんどは四月、五月の計画を立案して、すぐかかれるような体質になっているんです。

(うらべ)受注の四割しか作らないということは、見込みの大反対ですね。

(八野井)いや、あとの六割はやっぱり見込みです。

見込みだけれど、次の企画なんです。

(うらべ)ははあ、商品の追加をしないで、次の企画を見込みで作ってハメ込むわけですね。

(八野井)そうです。

(うらべ)つまり、いかにデッドストックを持たないですむかという方式論の答えですね、それが…‥。

(八野井)そうですね。マイペースできたわけです。

「売りやすい店に行くな、断られてもともとの精神で」

(うらべ)しかし、その「マイペース」を守るためには、適正規模があるんじゃないですか。

(八野井)やはり適正規模があると思います。

どの線かは難しいですけれども、小さい時は始めから終わりまで自分の目で確かめて、段階段階でチェックできる。

だから一つのブランドに優秀なデイレクターがいて、見られる範囲が適正規模だと思いますね。

(うらべ)でも、だんだんと規模が大きくなると、つき合いたくない相手とも、付き合わざるを得なくなるでしょう。

(八野井)それはありますね。

でも小売屋さん自体、最近は自分の店の主張をはっきりもたれていますから、以前より楽になったような気がします。

(うらべ)それはどうでしょうか。

もたれている方とのみつき合っているんじゃないですか(笑)

一般論としては、もってない店が多いから、オーバーストアなんだという論が多いですよ。

(八野井)そうですね。

漠然と店を出された方は、今後大変かもしれません。

プロ的な方でないと、むずかしいですね。

(うらべ)「プロ的な」お店というのは、おたくの取引先の中で、たとえばどんなお店ですか。

(八野井)うちの場合、おかげさまで伸びたのは、そういういいお店と取引していただいたからだと思います。

それだけに、いいお店は物の選択もきびしいです。

そのきびしさに、うちの社員が鍛えられながら、伸びてきたと思うんです。

おかしなものを作ったら、小売屋さんが買ってくれないですよ。

買ってくれなければ棚に残るから、デイレクターが反省するわけです。

そうして揉まれるから伸びられたんで、うちだけがいいものを作ったから伸びた、という感じじゃないですよ。

だいたい主体にしているお得意さんは、地方でも一流のお店ですから、ジュネさんはいいお得意さんもってますね、って言われます。

(うらべ)何だか、おたくと取引している店はオーバーストア時代に生き残り、取引していないところはイカれちまうという感じですね。(笑)

(八野井)いえいえ、ぼくらは営業の人間によく言うんですが、売りやすいお店に行くな、いつも断られるようなお店、その地方のレベルの高いお店に、商売できなくても当たれって。

そういう所と商売していないと誇りがないですね。

えてして、安易に買ってくれる所へ走りがちですが、そうなると会社自体のレベルが下がるような気がします。

(うらべ)商売は、お互いにいい相手を選んで伸びてくるんでしょうが、いいアパレルメーカーにひっついて儲からないのは配送屋といいますね。

悪いメーカーほど儲かる。荷物が行って帰り、行って帰り。(笑)★

以上 

チャネラー 衣料店経営と商品知識 No183 March 1977

昭和52年3月1日発行 定価580円 発行(株)繊維マーケテイングセンター 77年3月号 引用 (記事全文掲載)

関連サイト http://genet1988.blog.fc2.com/blog-entry-61.htmlMode des vestiges de Genêt ジュネ・ファッションの面影

ジュネ Genet co.,ltd. Corporate History Extra Edition

1970年代 黄金期 ファッションビジネス 社史 番外編

0コメント

  • 1000 / 1000