1970 Fall/Winter Looking back on 1970

気ままなヤングパワーへのファッション対策   「ジュネ」の場合

[ゆれ動くヤングをどうとらえるか?]

婦人服メーカーはヤングの奔放な嗜好に苦しんでいる。

そのとらえ難い生活、思考、感覚が、企画をゆさぶる。

思いもかけないヒット商品がでるかと思うと、自信のある商品が低迷したりする。

平和のなかに生まれ育って、文化社会を充分満喫しながら、一方では脱文化、脱社会を望むヤングは、流行に敏感であって妥協しないからである。

オシャレには貪欲だ。

親からしぼり、みずからも働く。

生活力がある。

それでいて気にいらないものにはみむきもしない。

どのメーカーもヤングの魅力にひきつけられながら、次第に苦しめられても来たのはその辺にある。

大きな収益をもたらす反面、リスクも増大したからだ。

専門店も、その対象はほとんどヤングである。

的確な商品をそろえれば異様なほどの嗅覚で集まり、仕入れを誤れば遠ざかる。

したがってたえず企画力のあるメーカーをさがしつづける。

それ以外に客をよぶことが考えられなくなったからである。

ゆれ動くヤングのファッションにどう対処すべきか。

その方向をとらえる必要を誰もが感じる。

ひとつの方法として、ヤング専門のファッションメーカーでとくに成功している企業をとりあげ、実例のなかから探るいきかたがある。

それは秋冬への対策にもつながる。

[ブラウス部門から出発したドレスが魅力のポイント]

「ジュネ」は若々しい企業である。

創業してまだ5年未満。

スタッフも商品も、若さがみなぎっている。

時代の要求からこのスタッフが集まり、若い女性のファッションづくりをはじめたともうけとれる。

社員51名のうち約半数が企画を担当している。

徹底的に企画を重視するアトリエ的メーカーの典型といえる。

本社から独立した企画室には、自由な発想を尊重する配慮がみえる。

現在のファッションはパリから生まれるとはかぎらない。

世界各地の都市から新しい風俗が発生し、それがファッションにつながるのと同様に、日本でも都市とそのなかに散在するタウンに集まる若者たちが、それぞれ気ままな風俗をつくりだす。

環境ができる。

それがヤングのファッションとなる。

したがってメーカーは消費者サイドの企画から出発した生産性志向をとる必要がでるわけだ。

「ジュネ」のファッションリサーチは、たえずそこに着目した姿勢をとっている。

日本全国各地の専門店、百貨店のブロックが取引先である。

その得意先とはたえず受注会をもつが、企画責任者、デザイナー、営業担当者が顔をそろえてのミーテイングだ。

ユーザーの要望を基盤にした取引先の主張をきき、そこから地域的なファッションをキャッチしようという目的もみえる。

「今日売れるファッションを今日つくって取引先に届ける。

それが現在の専門店へのサービスであり、わが社のねらいである。

ファッションのサイクルは極端に短縮した。

きわめてスピーデイであり、多様化し、個性化している。

メーカーは当然それに順応しなければならない。

各地域の若ものたちがつくりだす新しい風俗を、たえずとらえて

敏感に反応したファッションだけが要求されている。」と西村専務は強調しているが、そこにも今日的姿勢を見ることができる。

また八野井社長は「ブラウスから出発してドレス部門を併設したが、現在では婦人服の方が数量的にウエイトが高くなった。

ただわたしの会社の特色はブラウスの持つ洋品感覚が婦人服に反映していることにある。

現代のヤングは、そのフィーリングを要求する。

したがってブラウス部とドレス部は、どんな情勢変化のなかでも両立させ、お互いのセンスを交流させていくつもりだ」という。

ここにもジュネのファッションの特色があり、うまく説明している。

現在大手の専門店には洋品から出発したところがかなりある。

それが次第に洋服へのウエイトを高めてきた裏には、ヤングがファッションにおいて洋品の感覚をたえず婦人服にも求めており、それが発展へ大きくプラスしたという点があげられる。

同様にメーカーも、ヤングをとらえるにはブラウスのもつ洋品感覚と婦人服の感覚を、お互いに反映させあうことがヤングの嗜好にマッチするともいえるのではないか。

それは、よりカジュアル化をたどるファッショントレンドにも同調した。

流行の動向をみさだめながら、ヤングの風俗からオリジナル性の強いファッションを演出するポリシーにもつながってくる。

全国的にシェアを拡大して急成長した背景には、そういった新しさとアトリエ的な生産姿勢が取引先から肯定されたからとの見方もできそうである。

[デザインのポイント、フェミニズムの追求]

ところでジュネがとらえた今秋のファッション シチュエーションは次のようなものだ。

GNP二位にのしあがった日本は、ますます経済戦争も活発化するだろう。

資本自由化もある。

風俗はセックスの解放、伝統、常識の無力化といったものがあげられる。

そこで「人間解放こそファッションの今日的存在の理由」として、現代のファッション観を「個人的自由と人間回復が要請され、その一環としてファッションの位置づけがある」としている。

マーケット指向にも自然へのと自由の追求、人間性解放をあげる。

そこから生まれたテーマは、「イメージ トライアル サンダウナー」。

イメージ トライアルとは虚像の実像化であり、実像の虚像化である。

つまり消費者という虚像と、商品という実像の止場ということだ。

変化の時代は、変化を計画するところまでいっている。

トライアルすべき分野もそこにある。

それを表現し、確かめ、新しい認識をえた部分だけ再び表現してゆく作業を持続しようとする。

テクノクラシーの社会構造のなかに若ものも置かれており、かれらはイマジネーションの荒野へゆこうとする。

そこからデザイン テーマの二路線も生まれてくる。

つまりワイルド フェミニンとクラシカル フェミニンだ。

特色はどちらもフェミニズムの心情を深く追求しているということ。

ジュネはこれまでも女らしさを求めてきた。

商品に定着して、ひとつのカラーができた。

ソフトネスが主傾向の七〇年に、それが開花したともいえる。

同社のフェミニズムは現在の総花的なフィーリングに満足していない。

変化と予測とは計画しすぎるということがないからだ。

さらにカジュアルからフェミニンへと移行しつつあるものの、価値の創造にはフィーリングにおぼれ、質をフィーリングで誤魔化してはならないと考える。

ワイルド フェミニンは、野生、ボヘミアン、脱文化、自然、泥くささ、太陽、健康、手づくりの味、ドラム、ノスタルジアといったイメージ。

ニューAライン、ダーンドル、ハードライン、フィット アンド ムーブメント、チューブラインのシルエットで表現し、素材は皮革スエード、アニマル型押しスエード、太コール、ゴブラン、ファー、モケットなどを中心としてジャンパースカート、ワンピース、ツーピース、コート、ブラウス、パンタロン、スカートに展開する。

クラシック フェミニンのイメージは、都会的、文化的、洗練、影、まつわりつく、頽廃、優雅さ、柔軟さ、シルエットはソフトなニューAラインのニュアンスをもったソフト シルエット、ダーンドル、ベビードール、フィット アンド ムーブメント、チューブラインなど。

バックサテンのジョーゼット、ベルベット、ベルベットオパール、ウール、ジャガード、単彩調のアールヌーボー柄をメインとしたモスリン プリント、アンゴラ ジャージーなどのニットをマテリアルにジャンパースカート、ワンピース、ツーピース、コート、ブラウス、パンタロン、スカートを展開してゆく。

ボデイの美しさを楽しむ薄地のマテリアルでナチュラルボデイを主流に、ニットドレスもボデイが強調される。

さらに優雅さ、あくまでソフトなムード、ルールに束縛されないオシャレを主張しようとしている。

シースルー シャツやクレープ、オパールといった薄地のドレスをねらい、ダンカン調の優雅なイメージを追求し、ハードな素材にはかならずソフトなマテリアルを組合せる。

長さへの欲求も当然あらわれる。

過去から復活した現在の新しさの主張はミデイ、マキシに表現される。

ミデイのスカート、ロンゲストのペプラムスーツ、コート、さらにガウチョパンツ、インデイアン調ポンチョルック、ペザントなどが企画として展開されることになる。

同社の企画はあくまで現在的ファッションの主張である。

一九二〇〜三〇年代と傾向的に合致したファッションであっても、今日の風俗からくる 美の追求 としてとらえ、新しさとしての表現を試みる。

そこに秋冬商品への興味がある。

リサーチから商品化までのスピードアップも見ものというべきか。 [平石芳和]

以上

 1970 秋冬号 

 東京の婦人服&子供服

月刊「洋品界」別冊特集号 [発行]株式会社 洋品界

気ままなヤングパワーへのファッション対策   「ジュネ」の場合

P78~81より引用(全文掲載)

  

ジュネ Genet co.,ltd. Corporate History Extra Edition

1970年代 黄金期 ファッションビジネス 社史 番外編

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