1970 金の卵を生む企業『ジュネ』

1970   The Yohinkai March 1970

金の卵を生む企業 『 ジュネ 』   

<記> 本誌主幹 岩崎久次郎


大型景気に明けた一九七〇年は、戦後のベビーブームに生まれた子供達が、適齢期に達したことと、給与所得の大巾な増加で、ヤング .ファッション商品の売行はますます好調である。

なかでも婦人服分野は適確な仕入先をつかめば、飛躍的な売上増進が期待できる。

しかし、業歴の古い既成メーカーは、販売先がガッチリと固まっているので、新規取引は難しい。

そこで、新進のしかも商品企画のすぐれたメーカーを求めて血眼になる。

つまり、オリジナル.センスを持った新進婦人服メーカーは金の卵を生むニワトリのようなものだ。

この金の卵を生むニワトリの一つが、株式会社ジュネ(取締役社長. 八野井尚氏. 東京都台東区鳥越2−8−6)である。

年商は昨年約五億だが、昭和三九年創業以来、毎年倍増の売上で伸びた文字通り急成長の新興婦人服メーカーである。


▽ブテイック風のショールーム

その急成長の秘密をさぐるため、同社を訪ねた。

一昨年新築した四階建ての社屋に入ると、一瞬ゴーゴー喫茶にでも間違えて入ったかと思う。

壁面は黒で、照明もきわめて暗く、ビートのBGM音楽が流れているからだ。

ここがショールームで、原色の特殊な金属ハンガーに吊るされた商品だけが光のなかに浮かんでいる。

ファッション商品の販売には、販売環境のファッション.ムード作りが何より大事だといわれるが、まず店内装飾そのものが野心的なブテイック風である。

ここで八野井尚社長と経営幹部に同社の経営方針をいろいろと聞いてみた。


▽ヤング. ポルテへ志向

<問>取扱い商品の種類はどんなものがありますか。

<答>創業はブラウスからスタートしたのですが、四十一年にドレス部を設け企画をブラウスとドレスの二つに分けました。

現在扱っているのはブラウス、ワンピース、おしゃれコートです。

売上の比率では、ドレスが七〇%で、ブラウスが三〇%になりますが、部門単位では、それぞれデザイナーが年中フルに活動して見本つ”くりをしている。

ドレスの中でワンピースが中心です。

<問>対象は主としてヤング.カジュアルですか。

<答>ええ、そうですが、しかし、最近カジュアルの考え方が変わってきていますね。

年齢は飽くまでヤングですが、むしろヤング.プレタポルテ的な考え方に移行してきています。


▽若い力を結集して発展

<問>販路はデパート、大販店、専門店の中で、どこが主体となっていますか。

<答>九〇%が専門店です。

しかも一流店を目指しています。

デパートにも一部お取引願っていますが、その場合にはジュネのコーナーを設けていただいております。

つまり、商品の一点一点にジュネの個性がにじみ出ていて、コーナー全体にジュネのカラーを強調し、消費者にジュネ.スタイルを直結していただきたいと思うからで、この方針は今後も続けるつもりです。

<問>都内と地方とのお得意先の比率はどれくらいですか。

<答>都内が六〇%、地方が四〇%となっていますが。ほとんど全国的に分布されています。

首都圏を除いては、だいたい一地区一店主義ですね。

うちの場合は出張販売をやらないので、展示会または来社していただいて取引しています。

<問>年商が四十三年八月で三億八千万、四四年度が五億と伸びていますが、四十五年の目標は。

<答>一〇億を一応目標にして、企画などを充実させているが、それ以後は、人材が揃うにしたがって事業部的なものをつくり、若い人たちが能力を発揮できるような機構つ”くりをやりたいと考えています。

<問>急成長の源は、どこにあると考えていますか。

<答>やはり、全員がフルに働いたことでしょうね。

他社が十年かかることを五年でやって、附加価値を出していこうと話し合いながらやってきました。

うちは本当に若い人の集まりで、これによって伸びてきたが、これからは、心を引き締め合って、基礎固めをやっていこうと思っています。

<問>社員の数と平均年齢は。

<答>社員は四六名、そのうち男二十六名、女二十名で、平均年齢は二三、四歳で、社長自身も三八歳と実に若い会社なんです。


▽ファッション産業を自覚して

<問>外部のうわさでは、企画部門に非常に重点をおいて、良いスタッフが揃っていると聞いていますが、企画部は何名ぐらいですか。

<答>販売部門の方が多いのが通常ですが、ジュネでは販売部門が十二名、企画部門が十三名で、企画部のほうが多いんです。

スタートのころは販売すなわち企画でやってきたので、自分自身でポイントをうまくつかんでこられました。

<問>これからの経営姿勢の基本はどのように考えますか。

<答>ファッション産業としての自覚のもとに、仕入先、販売先との協力により、企画及び生産機能を拡充して創造作業に重点をおくという方針です。

ファッション産業は情報産業であるといわれていますが、問屋は小売店に情報を与え、小売店は問屋にフィードバックするようなシステムでないと伸びない。

つまり、消費者、販売先、仕入先のすべてが一体となってお互いに情報を交換し商品を展開していくわけです。

そのためには、企画、販売の環境改善に努力して、優秀な人材を生み出し、受入れ、システムつ”くりをはかって、販売援助を強力にし、売るということだけでなしに、小売店との横のつながりをつくっていきたいと思っています。


▽素材に重点を置く

<問>今年度の商品展開ではどう考えていますか。

<答>テキスタイル.デザインに力を入れ、素材に重点をおいていく方針で、オリジナルの生地を生み出していきたいと思っています。

具体的には、昨年だいぶ流行したモケットをアレンジして、より高級化したもの

を考えていますが、ともかく、これからは、一般にある生地を買ってつぶしているだけではオリジナルの製品はできません。

生地そのもののデザインからやっていきたい。

商品的な狙いとしては、ドレスが中心になってきているが、ブラウスを絶対に捨ててはいけないと考えている。

従来のレース調のものもブラウスだが、もっとロングのワンピース風のアウト.ウエア的感覚のものもブラウスであり、すでにブラウスの考え方が変わってきているので、固定観念を打破して、ブラウス部門の拡充強化はかっていきます。

固定観念を打破してゆくところに、また、すべての成長があるのではないでしょうか。


▽消費者の好みをキャッチして…

<問>最近の消費傾向はずいぶん変わってきていますね。

たしかにブラウスも従来の白い物とか、値段の安いものという概念が変わってきているようですが、そのほかに消費者の好みはどう変化していると思いますか。

<答>消費者自身が、自分でおしゃれを楽しむようになりましたね。

ミニの下にパンタロンをはくというように自由な感覚でおしゃれをしている。

カルダン、デイオール等のデザインよりも、ヒッピーのスタイルが流行しているのが現状ではないですか、このようにおしきせのファッションではなく、個性的なおしゃれをする消費者の好みをうまくキャッチしていかなくてはいけないと思います。   *

以上

服飾業界人の専門雑誌 洋品界 1970年3月号(通巻一七〇号)

昭和四十五年二月二十日  

<発行人>中村覚太郎

<編集人>岩崎久次郎

<発行所>株式会社 洋品界   定価三〇〇円

金の卵を生む企業『ジュネ』

p109~110より引用(全文掲載)

ジュネ Genet co.,ltd. Corporate History Extra Edition

1970年代 黄金期 ファッションビジネス 社史 番外編

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